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東京地方裁判所 平成6年(ワ)5782号 判決 1997年1月30日

原告

佐々木惠美子

右訴訟代理人弁護士

保田行雄

被告

岡部英勇

右訴訟代理人弁護士

山口親男

主文

一  別紙物件目録記載の各不動産を別紙分割目録記載のとおり分割する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要(請求原因の要旨)

一  原告と被告の実父である亡岡部勇(以下「亡岡部」という。)は、別紙別件目録記載(一)ないし(六)の各不動産(以下これらを一括して「本件不動産」という。右不動産を個別に指すときは「本件(一)の土地」、「本件(四)の建物」というようにいう。また本件(一)の土地ないし(三)の土地を一括して「本件各土地」と、本件(四)の建物ないし(六)の建物を一括して「本件建物」という。)をいずれも各持ち分二分の一の割合で共有していたところ、同人が昭和五七年九月一日に死亡して被告が相続により同人の持ち分を取得した結果、原告と被告は、本件不動産をその持ち分二分の一の割合で共有している(争いがない。)。

二  原告と亡岡部は、ミュージックテレビ製作所を共同経営し、本件各土地の上に建築してある本件(四)の建物に居住し、本件(五)及び(六)の各建物を作業場兼倉庫として、音楽教育の補助教材であるミュージックテレビの製作、販売にあたってきた。そして、亡岡部の死亡後は、原告が右経営を受け継いだ(争いがない。)。

三  本件不動産の位置関係は、次のとおりである。すなわち、本件各土地の位置関係は別紙分割目録添付の実測図(以下「実測図」という。)のとおりである。また本件各建物の位置関係は別紙分割目録添付の敷地分割図(以下「別紙敷地分割図Ⅰ(C案)」という。)のとおりであって、概略本件(二)の土地上南側から北側へ本件(四)及び(六)の各建物が、本件(三)の土地上に本件(五)の建物が建築されている(弁論の全趣旨)。

四  原告は、ミュージックテレビの製作、販売の業務を平成七年一二月をもって廃業し、現在本件(四)の建物に一人で居住し、無職で年金生活をしている。なお、本件(六)の建物にはミュージックテレビの製作、販売業務に従事していた際の部品等が置かれている。本件(五)の建物は全く使用していない(原告本人)。

他方、被告は妻とともに福岡県大牟田市内に居住してピアノ店を営業しており、本件不動産について現在使用していない(被告本人)。

五  原告は、被告に対し、本件不動産の共有物分割を請求しているが、被告はこれに応じない(争いがない。)。

第三  被告の主張

一  本件不動産は事実上一個のものであり、現物分割ができないか、あるいは現物分割によって著しく価格を損するおそれがあるときに該当する。すなわち、本件各土地の価格は、一体の土地としての価格に比して本件各土地を東西または南北に二分割して、その各土地の価格を合計したものがはるかに低額となる。また、分割しなければ本件各建物をそのまま有効に使用しうるが、分割すれば本件各建物の取り壊し、もしくは改築の必要を生じることになる。したがって、被告は、主位的に「本件不動産を競売に付し、その代金を二分の一宛分割する。」旨の判決を求める。

二  仮に、現物分割というのであれば、予備的に「別紙敷地分割図Ⅱ(A案)」のとおり分割する。」旨の判決を求める。

別紙敷地分割図Ⅱ(A案)のとおりの分割を相当とする理由は次のとおりである。

1  原告と被告の取得地はいずれも公道に接する。

2  東西の分割地の価格は等しい。

3  本件建物は右図面の境界線に沿って間仕切りを設けることにより、そのまま将来利用できる。

4  将来の建物改築に支障はない。

5  東側と西側の両方の土地にそれぞれ家が北よりに建築できて、また将来の建ぺい率や容積率が規制緩和になったとき、残っているそれぞれの土地に建て増しが出来る。

6  東側と西側の土地の両方の土地の家が同じように南からの日当たりが良くなる。

7  東側と西側の土地の両方の土地に同じように駐車場が確保できる。

8  東西の分割であるから北側斜線の規制や道路斜線の規制の影響が少ないので、東側と西側の両方の土地がそれぞれ有効利用できて、家を新築するとき余裕をもって設計できる。また、原告の主張する南北の分割のときには六坪もの通路が必要であるが、東西の分割ではその通路の必要もない。

9  本件土地は建築基準法四二条二項の公道に面しているので、家を新築するとき公道の中心より二メートルセットバックしなければならないが、セットバックしても東側と西側の両方の土地が同じ面積に残るので平等である。

10  東側と西側の両方の土地が同じ面積であるので、建築基準法上の上限である一七坪の家がそれぞれの土地上に新築できる。

11  本件各土地は、南北に分割すると北側の土地は敷地延長になり、公道からの通路が必要になるその通路の

幅は、東京都条例の規制で二メートル以上の幅がないと家を新築できないことになっている。現在の条例では二メートルでよいが、将来条例が改正されたりすると二メートルの幅では家が新築できなくなる事態が発生するおそれがある。この不安は永久につきまとうことになる。過去の条例では二メートルの幅では家を新築できない時期があった。

そのようなわけで、南北の分割に比べて東西の分割では東側の土地も西側の土地も直接公道に面しているので、その通路も必要なく両方の土地に何時でも不安なく建物を新築できて公平である。

12  南北分割案では、原告・被告とも道路に面した南側の土地を取得したい旨主張し、これを前提としているのであるから、一方を北側の土地、他方を南側の土地の取得者とすることは不公平となる。

第四  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第五  当裁判所の判断

一  本件の争点は次のとおりである。

1  本件不動産について現物分割が可能か。

2  現物分割するときにはいかなる方法が最も合理的であるか。

二 本件不動産について現物分割が可能か

1 共有不動産の分割において競売が許されるのは、現物をもって分割することができない場合か、現物分割をすると著しくその価格が減少するおそれがある場合でなければならない(民法二五八条二項)。現物分割を原則とするこの民法の規定は、できる限り目的物を現実に利用している者の生活に配慮して分割するべきであるとの趣旨を含むものと解される。

2 前記のとおり、本件各土地の形状、位置関係は実測図のとおりであり、また本件各建物の位置関係は別紙敷地分割図Ⅰ(C案)のとおりであって、概略本件(二)の土地上南側から北側へ本件(四)及び(六)の各建物が、本件(三)の土地上に本件(五)の建物が建築されている。そして、本件各建物は建築後二一年ないし三二年を経過した老朽建物であり、使用資材の品等、施工とも劣り、当面の使用価値は認められるものの、市場交換価値は全くないものと認められる(鑑定の結果)。右の事実に照らすと、本件各土地を二個に分割しても十分に建物を建築して利用しうる面積及び形状にあることは明らかであって(本件各土地を二分してそれぞれ独立した所有権とした場合、本件建物の一部を取り壊すことになる可能性も否定できないが、本件各建物は市場交換価値は全くないものと認められるから、関係者に対し土地の利用上特段の不利益を与えることはないものと認められる。)、本件不動産は、建物と敷地を基準として現物分割をすることが可能であるといわなければならない。

ところで、被告は現物分割によって本件各土地は著しくその価格を損するおそれがあると主張するが、乙第八号証(民間不動産会社作成の平成五年六月二五日付け「査定結果報告書」)によると、全体を一括して売却した場合には約一億一〇〇七万円の価格であるのに対し、分割して売却した場合の価格の合計は九七五〇万円から九七九二万円程度に低下する旨の記載がある。しかし、右記載によっても、本件各土地を一括して売却の場合に比してその低下の割合はせいぜい一〇パーセント強程度に過ぎず、現物分割によって本件各土地の価格が著しく損するとまでは到底認められず、他に一個の所有権である場合に比して、その価格が著しく減少すると認めるに足りる証拠はない。

よって、現物分割がおよそできないとする被告の主張は到底採用できない。

3  以上のとおり、本件不動産は現物分割が可能というべきであり、本件不動産を競売してこれによる売取金を分割することを求める被告の主張は失当である。

三  現物分割の方法について

1  本件不動産を現物分割する方法について、原告は別紙敷地分割図Ⅰ(C案)のとおりの分割方法(以下「南北分割案」という。)を主張し、被告は別紙敷地分割図Ⅱ(A案)のとおりの分割方法(以下「東西分割案」という。)を主張するので検討する(なお、被告は南北分割案の場合には、別紙敷地分割図Ⅲ(B案)の南側を被告が取得する分割方法を主張している。)。

2 被告の主張する東西分割案は、被告の主張するとおり、例えば、原告と被告の取得地がいずれも公道に接し、東西の分割地の価格も等しくなる等、本件不動産を分割するに際し事実上様々な点が公平になることが多いことは否定できない。

しかしながら、東西分割案によると、土地を細長く分割することになり、分割後の各土地の南側、公道に接する部分の間口はわずかに5.5メートル強程度の距離を有するに過ぎず、建ぺい率が三〇パーセント、容積率が六〇パーセントであることをも勘案すると、住宅建築が不可能ではないとしても、建物の建築が事実上制限されるなど分割後の土地の経済的効用を阻害する結果となり、分割後の各土地の資産価値を著しく減じさせることになりかねないから、本件各土地の分割方法としては不相当といわざるをえない(乙第八号証、甲第一七号証参照)。

3 一方、原告の主張する南北分割案は、右に述べた東西分割案のような、分割後の各土地の利用に特段の障害は存しないものと認められ、本件各土地の位置関係並びに形状に鑑みると、東西分割案により現物分割することが困難である場合には、原告の主張する南北分割案により分割するほかないことが認められるところである(被告は、南北分割案は北側の土地の取得者のために幅二メートル以上の通路を設けなければならず、この部分が当事者双方にとって損失となると主張するが、現物分割が可能であり、かつ被告の主張する東西分割案が採用できないものであって南北分割案によらざるをえない以上、北側の土地の取得者のために幅二メートル以上の通路を設けなければならないことはやむをえないことといわざるをえない。)。しかして、右の南北分割案による場合、北側の土地と南側の土地の経済的価値を等しくする方法として、当事者の主張するとおり土地面積を持ち分に従い等分する(但し、本件各土地を南北に分割すると北側の土地は敷地延長になり、公道からの通路が必要になるところ、その通路の幅は、現行東京都条例の規制で二メートル以上の幅がないと家を新築できないことになっているので、幅員二メートルの通路部分を除外して等分する。)方法が最も公平に適うものというべきであるから、別紙敷地分割図Ⅰ(C案)のとおりに分割するのが相当である(なお、この場合、概算でA部分の価格は約三五六八万余円、B部分とC部分(通路部分)の合計価格は約三七八四万円となり、A部分だけよりB部分とC部分を併せた価格の方がやや高くなることになる(鑑定の結果)。)。

ところで、被告は南北分割案による場合、現在は北側の土地の取得者のために設ける通路の幅員は二メートルで足りるが、将来は法規の変更により二メートル幅の通路では北側の土地上に建物を建築することができなくなるおそれがある点を強調して、南北分割案が相当でないと主張し、その不安感自体は理解できないではないが、現行法令が具体的に改正されるというのであればともかく、現時点において全くの仮定の話といわざるをえず、このような被告の抱く単なる危惧を前提に本件不動産の分割方法の当否を判断することは相当とは解されないから、右主張を直ちに採用することはできない。

4  以上のとおり、本件不動産の分割にあたっては、別紙敷地分割図Ⅰ(C案)の南北分割案によるべきである。

しかして、裁判所は共有物分割をする場合、共有不動産の種類、性質、地形のほか、その利用方法、当事者双方の諸事情を考慮して分割方法を定めるべきことになるところ、前記のとおり、原告は亡岡部とミュージックテレビ製作所を共同経営し、本件各土地の上に建築してある本件(四)の建物に居住し、本件(五)及び(六)の各建物を作業場兼倉庫として、音楽教育の補助教材であるミュージックテレビの製作、販売にあたり、亡岡部の死亡後も原告が右経営を受け継いだが、平成七年一二月をもって廃業し、現在は本件(四)の建物に一人で居住し、無職で年金生活をしている。なお、本件(六)の建物にはミュージックテレビの製作、販売業務に従事していた際の部品等が置かれている。本件(五)の建物は全く使用していない。

他方、被告は妻とともに福岡県大牟田市内に居住してピアノ店を経営しており、本件不動産を現在使用するものではない。

以上の原告と被告の本件不動産の利用状況に照らすと、原告が分割後の南側の土地を取得するのが相当である。けだし、原告の生活実態、使用の必要性を考慮すると、原告は現在本件(四)の建物を自宅として使用しており、南側を原告が取得する方が現状を大幅に変更することなく共有物の分割を行えるからである。なお、原告が南側を取得した場合には、本件(六)の建物が、北側敷地部分に越境することになるが、この部分は本件(四)の建物とは別個独立の建物であり、原告も越境部分については取り壊して使用することを約束し(原告本人)、現に容易に取り壊せるものであるから(弁論の全趣旨)、本件(六)の建物が存在することは原告が南側を取得することの妨げとなるものではない。

被告は、南北分割案による場合、自らが南側を取得するのが相当であるとし、その事情として、被告夫婦と次女(音楽大学一年)は文化の中心である東京で生活できることをこのうえなく願っている、長男の会社の営業所も東京にある、長女の婿の会社の営業所も東京にある、被告の家族にとって本件不動産は必要不可欠である、被告は東京の亡岡部が残した本件土地に移住して仕事をしたいがために亡岡部の遺産分割に当たり、本件不動産を相続するため一〇〇〇万円を他の相続人に支払ったのである等と主張し(乙第一、二号証参照)、さらに原告が南北分割案を主張する以上、同案の不利な点はすべて原告が負担すべきであるとまで主張するところ、被告が亡岡部の遺産分割に際し、本件不動産を取得した点について何らかの見込み違いがあったものと推察できるものの、被告は、現に福岡県大牟田市に居住しているのに対し、原告は、もともと本件不動産の共有者である亡岡部と本件(四)の建物に居住し生活してきたものであり、現在も住居である本件(四)建物で生活しているものであるから、被告の主張する諸点を考慮しても、なお、本件(二)の土地及び本件(四)の建物を現実に生活の基盤としている原告と比べるとその利害関係は相対的に低いものとみるほかない。

よって、被告の主張は採用できない。

三  よって、原告の本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小久保孝雄)

別紙物件目録

(一) 東京都板橋区<番地等省略>

宅地 20.71平方メートル

(二) 東京都板橋区<番地等省略>

宅地 106.21平方メートル

(三) 東京都板橋区<番地等省略>

宅地 73.90平方メートル

(四) 東京都板橋区<番地等省略>

家屋番号 七三九番六

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 27.27平方メートル

(五) 東京都板橋区<番地等省略>

鉄骨造亜鉛メッキ鋼瓦葺二階建作業所

床面積 一階 58.67平方メートル

二階 58.67平方メートル

(六) 東京都板橋区<番地等省略>

木造瓦葺二階建作業所

床面積 一階 56.13平方メートル

二階 46.21平方メートル

別紙分割目録

一、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の不動産を別紙実測図のとおり一体として次の通り分割する。

1 別紙図面(一)部分宅地90.42平方メートルを原告が取得する。

2 同図面(一)及び部分宅地110.41平方メートルを被告が取得する。

二、

1 別紙物件目録(四)及び(六)記載の不動産は原告が取得する。

2 同目録(五)記載の不動産は被告が取得する。

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